第六園
九竜湖幼稚園

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施 設 名 第六園九竜湖幼稚園
所 在 地 中国江西省 南昌市
竣  工 2021年

施 設 名 第六園九竜湖幼稚園
所 在 地 中国江西省 南昌市
竣  工 2021年

建物のあり方は、そこで過ごす人の関係性をそっと変えていきます。
特に幼稚園のような場所では、子どもたちの動きや気配に寄り添いながら、その空間が、どんなふうに“つながり”を支えてくれるかが、とても大切になってきます。

この園では、「おとぎ話」というテーマを土台にしながら、3つの視点から、空間の在り方を考えていきました。

1|心が動く
「インタラクティブ・コミュニケーション」

2|園舎に息づく、子どもたちの「活気」

3|「誇り」に変わる居場所でありたい

この園が好きだと思えること。それは、子どもにとっても、大人にとっても、何よりの安心になります。
日々をともに過ごすすべての人が、ここに誇りを感じられるように。園舎を超えて、心に残る場所であることを目指しました。


エントランスから始まる小さな物語

子どもたちに入り口をイメージしてもらうために、入り口ゲートは大規模な建物とは対照的な繊細なデザインにしました。
まるで絵本の一ページに出てくるような、ちいさな家のようなフォルム。柱の一本一本はアイスキャンディーの棒を思わせるかたちで、差し込む光に映る影までもが、子どもたちにとっての“遊び”になります。

足元に落ちた影を踏みしめながら、一歩ずつ中へ進んでいくとき、今日の出来事に、まだ見ぬ冒険に、胸が高鳴っている――そんな子どもたちの気持ちに、そっと寄り添えるような入り口を目指しました。

ジャックと豆の木、そして森の広場

エントランスを抜けた先、天井高くまで伸びる一本の大木が、この園に物語の世界を呼び込んでいます。
幹の内部には螺旋階段があり、展望台や橋を介して各階へと連なっています。
子どもたちは、この大きな木の中を自由に行き来しながら、ときに見上げ、ときに見下ろし、自分の身体で空間そのものを確かめていきます。その変化を、全身で感じ取りながら過ごすうちに、子どもたちはいつの間にか「ジャックと豆の木」の主人公になったような気持ちで、この建築という“物語”の中に、自分の足で入り込んでいきます。

その隣に広がるのは、「森の広場」と名付けた多機能スペース。
ゆるやかな曲線を描く家具が、空間にやさしいリズムを生み出し、あたりには、森の中にいるような穏やかな気配が漂います。「森の広場」の木陰には、体験食堂としても使える多機能テラスが設けられています。料理の音や匂いが届くこの場所で、子どもたちは「食べる」だけでなく、「待つ」「つくる」「味わう」といった行為を、生活の延長として自然に感じ取っていくのです。

空を飛ぶ魔法の絨毯

2階と3階をつなぐ吹き抜けの空間に、軽やかに浮かぶように設けたのは「魔法の絨毯」。
その名のとおり、子どもたちがふわりと空に浮かんだような感覚を味わえる、立体的な遊び場です。

足元には、ロープを組み合わせたネット状の空間が広がり、子どもたちはその中を自由に走り、跳び、寝転びながら、空中にいるような浮遊感とともに、自然と全身を使った遊びを楽しんでいきます。
バランス感覚や筋力が育まれると同時に、「楽しい」と感じることそのものが、子どもたちの心に深く刻まれていきます。

さらに、空中に設けられたガラスの橋からは、園内の景色を見下ろすことができます。
透明な手すり越しに広がる風景のなかで、子どもたちは「見る」ことの面白さに気づき、ときには「誰かに見られている」ことを感じながら、この園という世界に、自分が確かに存在していることを知っていくのです。

子どもたちの“家”として

「ジャックと豆の木」や「空飛ぶ魔法絨毯」で疲れたあとは、安心して休める場所に戻って、クラスの子どもたちと温かい時間を過ごします。
子どもたちの家には明確な仕切りがありません。大きな一室のような空間のなかで、子どもたちは遊び、学び、昼寝をし、一日を、まるごと受け止めてもらえるような感覚で過ごしていきます。

空間を必要に応じて分けるのは、固定された壁ではなく、先生たちが動かす家具たち。
活動にあわせて、区切ったり、つなげたり、開いたり、閉じたり。日々の生活のなかで、空間そのものが“呼吸している”ようなやわらかさを持っています。

庭で育つ、もうひとつの学び

園舎とひと続きの庭には、自然とふれあい、発見を楽しめる工夫を随所に取り入れています。
木々に囲まれた展望台では、季節のうつろいを肌で感じながら過ごすことができ、花びらのように並ぶ運動場には木陰が生まれ、遊びの合間には、心も身体もそっと休まります。農場では、土に触れ、種をまき、実った作物をみんなで収穫し、喜びを分かち合います。
築山の起伏を活かした野生のエリアでは、小さな生き物との出会いも待っていて、そのひとつひとつが、子どもたちにとっての学びの入り口となっていきます。

この庭が、園舎と切れ目のない“もうひとつの教室”となるように――そんな思いを込めて、ひと続きの環境をかたちにしました。

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